バリウムは初恋の味

別に飲む必要はないけれど、せっかくなので飲んでみようと申し込み。ありがちな身体測定やら血抜きやらを済ませ、期待に胸をふくらませながらレントゲン車へと向かう。



「ズボン脱いでください」



新入社員の健康診断は、いきなりシュールだ。一瞬騙されたかと思いながらズボンを脱ぐと、ひと包みの薬を渡された。「これ何ですか?」「はっぽうざいです」そういえば忍たま乱太郎に冷えた八宝菜ってのがいたなぁ、なんて思いつつ言われたとおりに少量の水で飲み込むと、期待どころか変な泡で内臓が一杯になった。すっぱくて意外に美味しい。あーあーここで我慢するんですよねハイハイ、しれっとした顔で待っていたら、ついに渡されたコップ一杯の液体。よし一気に・・・いただきまっ・・・「あ、まだ飲まないでくださいね」へ?と言いかけたときに、内臓から大量の空気が出そうになったので慌てて口を押さえる。



妙な台に横になり、手すりに掴まったところでようやくお許しが出た。よーし!と一気に飲み干すと、おー意外に悪くない。どろっとした口当たりにバニラの風味が心地よい。ほほぅ・・・と感心するも束の間、いきなり体の下の台が動き出した。「はい横に一回転して」手を離せば頭の方にズリ落ちるような体制で、しかも膨満感に耐えながら、仕方が無いのでぐるぐる回る。あっち向いてカシャ、こっち向いてカシャ、ぐるっと周ってカシャ、もうあらかた蹂躙されつくしたところで放免された。わりと癖になりそうだ。ふぅー、とりあえず水とお茶と貰った下剤を飲み、世間話がてら作業服のおっちゃんたちとトマトジュースで一杯。なんだ楽チンじゃないか。そう思ったとき、奴がやってきた。



「インよりもアウトが辛いんだよな、あれ」・・・ふふふ、そうか。そういうことか。一足早くやってきた雪景色に、思わずニヤけた昼下がり。甘く切ないその味は、後に思えばほろ苦い。うん、健康ってのは素晴らしいこった。