俺キレさせたら大したもんっすよ

家庭教師をしている子がキレてしまった。といっても、よくあるような教師をブン殴ったり刃物を振り回したりというのではなく、「もう受験はやめる」と言い出したのだ。以前にも似たようなことがあったので今回も・・・と思ったが、夕方その子の母親から電話で聞いた話によると、今回は少し様子が違うようだった。




今日はちょうど勉強を教えに行く日だったので、とりあえず話を聞きに行く。と、いつもは小走りに玄関まで出てくるその子が、来ない。出てきたのは留守番(母親は仕事)をしていたおばあちゃん。


「ずっとトイレに篭って出てこないんです・・・」


若いなぁ、なんて思いつつもトイレのドアの前まで行ってみる。水と食料を持って部屋に閉じこもり全ての家具でバリケードを作ったはいいが、トイレに行けなくて困り果てていた昔の自分を思い出す。あの時は切羽詰って窓からしようとしたもんだ。やっぱり閉じこもるならトイレだな、と今さらながら思う。




家庭教師来訪でさらに説得に力の入るおばあちゃんを抑え、とりあえずお話を伺う。「母と娘とその息子」の現状を冷静に分析して話して下さった。年寄りが偉い理由は多分こんなところにあるんだなぁ・・・などと思いながら、とりあえず席を外してもらう。実力行使をするつもりはないが、金八をやるつもりもない。力ずくでドアをこじ開けて食料とマンガを渡したあと、リビングで夕方のニュースを30分ほど見る。イチローイナバウアー。スポーツコーナーが終わったところで、電子レンジと全ての部屋のエアコンをつけてブレーカーを落とす。「あれ?」




トイレから出てきたその子は比較的落ち着いているように見えた。が、やはりちょっとおかしい。わーい出てきたプギャーなんてやれる雰囲気じゃない。色々と話してくれたところによると、切れてしまった原因は

・やることが多すぎる
・母親がうるさすぎる

ことにあるらしい。「やりたくない→集中できない→時間がかかる→腹が減る→何もできない→怒られる→やりたくない」というありがちな無限ループに嵌ってしまっているその子にとって、塾から与えられる(義務付けられる)課題の量は客観的にも確かに多すぎるように思えた。そして何よりも後者が(具体的な話を出すことは控えるが)「うるさい」次元では済まないのが難しいところなんだろう。その子が誇張してしまっている部分もあるのかと思い、ひととおり聞き終えたところでおばあちゃんにご降臨願って話を聞くも、どうやらそれほど激しく誇張しているわけでもないようだ。想像していた以上に深刻な事態に戸惑うセンセイ(笑・・・うしかないw)



その後、帰宅した母親とその子の話を聞く。それとなくセンセイは上の2点についての自分の意見を述べるも、我が子にも、そして自らにも厳しい母親の意志は固い。彼女の思考には「やる」「やらない」の二択しかなく、そしてどちらも過酷だ。嫌ならやめちゃえば?などという話は通用しない。それどころか、その子の正しい言い分でさえも、彼女にとっては「甘え」でしかない。正しいって何?っていうのはさておくとしても、これじゃどっちも辛い気がする。



過酷ではない道・努力せずにすむ道を選び、その場その場を楽しんできたセンセイの生き方を否定するような厳しい言葉の数々が、その子に次々と向けられる。何とか「程々にやる」という選択肢を提案してその場を納めたが、納得してもらったものの「多分無理だろうな」と感じているセンセイがここにいる。だってみんな真面目なんだもん。サボり方ならいくらでも教えt・・・まぁ今はただ二組の親子の溝が少しでも埋まることを願うのみである。




自分からしゃしゃり出たわけではないが、もしかしたらお節介が過ぎたかもしれない。何かをしようとしたことにも、何もしていないことにもほんの少しだけ嫌気がさしている。毎度のことながら自分のこの性格が恨めしくもあり、羨ましくもある。何だそれ?と言われてもそんなことは知らぬ。ま、それでいいのだ。